サウナ短歌
メトス熱ひだりっ鼻が焼かれてる右の鼻がつまってるんだ
メトスは昭和の初めからあるサウナストーブの販売メーカーだ。会社のモットーは「人」の「心」と「体」をあたためる。経営理念に共感しまくりの会社なのである。
サウナは瞑想と同じ効果があって、気持ちがととのってくるとついつい深呼吸をしてしまう。サウナーのみなさんはサウナ室での深呼吸がいかに危険か分かると思う。あまりにもうかつで愚かな行為だ。鼻が焼ける。
鼻のあながジリジリと焼かれて、しまった!と思う。思った時にはもう遅い。鼻を焼くたびにいつも後悔している。サウナ室にはビールのポスターよりも深呼吸禁止!の貼り紙をしておいてほしい。
多分、鼻の緊急事態を察した鼻毛部隊が急いで防壁を築いてしまったと思う。オトメとしては由々しき問題だ。
ところが今回被害を被ったのは左の鼻のあなだけだった。右側は熱くもなければ鼻毛も伸びていない。
「……右の鼻、つまってんのか」
最近、いびきがひどい理由が分かった。
硬派サウナーも満足する7種のメトス監修サウナ
チームラボとサウナの融合と聞いたときは、サウナもついにここまで来たかと思った。
正直に告白すると、楽しみよりもチームラボとコラボして気持ちの良いサウナができるもんかね、とひねくれた気持ちの方が大きかった。
そもそも個人的な嗜好として、ナンバー1が好きではない。スマホならdocomoには絶対に加入しない。マンガなら鬼滅の刃は読まない。映画ならジブリは観ない。
もしも願いが叶うなら、人気のあるものを受け入れる広いこころが欲しい。実のところひねくれていると非常に生きづらい。
アートサウナの予約当日。自分でチケットを取っておきながら六本木に向かう足取りは重かった。
「六本木って」
そう言いながら、家にある一番オシャレな服を着て出かけた。
入り口で係員にTik Tokをやったことはありますか?と聞かれた。ない、と答えるとQRコードを読み込むように促された。Googleストアが立ち上がりTik Tokのインストール画面が現れた。
係員の説明を笑顔で聞きながら、インストールボタンを押すふりをしてスマホをそっとコートのポケットにしまった。
その後も、入り口でディズニーランドのアトラクションのような事前説明動画を見せられ、係員から館内の説明を受け、わたしは憂鬱な気持ちになっていた。
昨年「サウナの前はいつも憂鬱」というサウナ小説を出版した。まさかサウナに行っても憂鬱になるとは思っていなかったので、今年の新刊のタイトルは「サウナに行っても変わらず憂鬱」になるかもしれない。
ところが、サウナの力は偉大だ!サウナに入れば憂鬱なんて吹き飛んで閉まった。
まず、無料レンタルの水着の着心地がばつぐんに良かった。さらりとした生地で、締め付け感がなく肌あたりが良い。販売していたら買いたかったくらいだ。
心地よい水着に着替えてサウナエリアに行くと、なんと7種類ものサウナがあった。それぞれ照明の色、温度、湿度、香りが異なる。一般的なサウナは、あってせいぜい2〜3種類だ。高温サウナと塩サウナとか、よもぎ蒸しとか。
ところがアートサウナでは低温の80度で白樺の香りを楽しむサウナから、100度でロウリュもアロマもなしという硬派なサウナまで趣向を凝らしたサウナが用意されていた。
特に気に入ったサウナTOP3を紹介する。
Forest Wind Green 90度 ロウリュあり ジュニパーの香り 程よい温度としっとりした湿度で長時間いられる心地よいサウナ。サウナ初心者にもおすすめ。
Static Pink 90度 ロウリュあり シナモン&ジンジャーの香り 女性専用サウナ。どぎついピンクの照明なのに意外と落ち着く。10分に1回行われるロウリュの直後に入って濃厚なシナモンの香りを堪能して欲しい。
Silent Yellow 100度 ロウリュなし 香りなし 他のサウナは音楽が流れているがSilent Yellowは無音。高温、ドライ、無臭と硬派をつらぬいたサウナだ。なんだかんだ言って一番サウナらしいサウナ。だんとつに芯から温まる。
チームラボ?Tik Tok?とひねくれている硬派なサウナーさんにも、サウナに入ってから良し悪しを判断してほしい。個人的には、メトスが監修しただけあってサウナ愛がアツアツの大満足サウナだった。
ただ、人の出入りが激しいためかWebサイトでは100度と記載されている高温サウナの温度が96度前後どまりだった。イベントサウナの温度管理の難しさが浮き彫りになったが、イベントサウナはこういうものと割り切って世界観を楽しむのが良いかもしれない。
アートの前ではととのわない
アートサウナの一番のウリは、チームラボが監修したアート浴だ。外気浴をする代わりに、ととのった心と体でアートを鑑賞すればアートの感動が何倍にもなるという触れ込みだったが、こちらは正直いまいちだった。
まず、チームラボの作品がリアル鑑賞向きではない。 写真や映像ごしのチームラボの作品は映えて美しいが、実際に目の前にすると意外とそうでもない。フィルターを通したときが一番美しく見える作品だ。
さらに一番の問題は、アート空間はととのわないということだ。
九州新幹線のデザインなどで有名なインダストリアルデザイナーの水戸岡鋭治先生は、著書「ぼくは「つばめ」のデザイナー」の中でこう言っている。
「デザインが一定以上のレベルに達すると、乗っている人に一種の心地良い緊張感が生まれるんです」
つまり、人は良いアート、良いデザインの前ではぴっと背筋がのびる。列車のデザインではハイレベルなデザインが乗客のモラルの向上につながっていると話している。
では、サウナの場合はどうだろうか?究極のリラックスであるととのうと、モラルや緊張感はまったくの正反対だ。
チームラボのハイレベルなアート空間の中で休憩することは、心地良いが緊張感を与えてしまいととのわない。
もしアートとととのうを両立するのであれば、健康ランドの宴会場にマルセル・デュシャンの便器を置いておくぐらいのおふざけがほしい。
外に出ると、あたりは薄暗くなりネオンが輝きだしていた。六本木の街がやっと六本木らしくなる時間だ。
細い路地の奥に六本木ヒルズが見える。雑居ビルも負けじとタイル貼りの壁を魚のウロコのようにギラギラと輝かせていた。
雑居ビルの光に感動している今。これがととのうってことなんだよなあ。