【サウナ】保土ヶ谷 天然温泉 満天の湯|背中があたたかいと人は安心する

サウナ短歌
イ草の香たちのぼりたるゆりかごを出たらセカイが一周してた

平日の夕方、スーパー銭湯に行ったらうたた寝湯でお客さんみんなが気持ちよさそうにうたた寝をしていた。

うたた寝湯は、露天風呂のある半外(はんそと)に置かれた畳敷きの寝湯だ。うすーくはられたお湯が背中を温め、気持ちよくゴロ寝ができる優れものだが、畳敷きは珍しい。たいていは石づくりなのだが、それでもお湯のおかげで石のかたさが和らぐのが寝湯の良いところだ。

畳敷きならその寝床の柔らかさはなおさらだろう。

ぜひとも畳敷きの寝湯を体験してみたいので順番待ちをすることにした。うたた寝湯を横目にちらちら見ながら、シルク湯、つぼ湯、塩サウナ…とひととおり入りながら時間をつぶしたけれど、うたた寝湯の順番は一向に回ってこない。

先客のご婦人たちは寝湯ですっかり寝入ってしまっている。皮下脂肪たっぷりのおなかを曇り空に向けて、素っぱだかの上に茂るふさふさが梅雨入りしたばかりの湿ったそよ風にゆれている。6体も。まるでマグロ市場だ。

いや、人生の先輩にその言い草は失礼だ。ここは品よくうたた寝湯を新生児ルームに見立てて、ベイビーたちと呼ぶことにする。

それにしても人がうたた寝をする姿は年齢に関係なく愛らしい。場所も関係ない。地方のスーパー銭湯で寝ていても、夕方の通勤電車で寝ていても愛らしい。ベッドに入って本格的に眠る姿とは違って、うっかり無防備になっているところが愛おしさを倍増させる。

一度、電車でうたた寝をしてもたれかかってきた他人に肩を貸し続けたことがある。そんな風に他人と触れあえた頃が懐かしい。

ベイビーたちは一向に目を覚まさない。仕方がないのでうたた寝湯はあきらめてドライサウナに向かった。

彼女たちが目を覚ましてゆりかごから出る時、セカイはきっとうたた寝をする前の疲弊した日常から一変しているんだろうな。ハロー、あたらしいセカイ。ハロー、新生児たち。

目次

背中があたたかいと人は安心する

ドライサウナに入ると、人がいるのに視線を感じない不思議な違和感をおぼえた。先客がいればふつうはサウナに入ってきた新参者のわたしに視線が向けられるはずだ。ドアを開けて温度を下げるなよというサウナ玄人の視線の時もあるし、サウナの熱さにやられていて見るとも見ないようなぼうっとした視線の時もある。

この違和感はなんなんだろうと思ったら、先客がみんなタオルで顔を覆っていた。

ボディタオルを忍者の頭巾のように器用に顔面に巻き付けている。正直、熱にうなされた時の夢に出てきそうで怖い。今もタオルの忍者巻きの映像がしっかりとまぶたの裏にこびりついているので、次に風邪をひいたときに夢に出てくるんじゃないかとドキドキしている。

ドライサウナは、3階建てのタワーサウナだった。大きめのスーパー銭湯によくある大人数が収容できる大型のサウナだ。天井が高いので圧迫感が少なく、サウナの息苦しさが苦手な人に向いている。

ただし熱気がサウナ室内にどのように対流するのかを知っておかないと、せっかくのサウナ体験が残念なものになるかもしれない。

例えば、満天の湯のドライサウナの温度は78度だったが、タワーサウナの一番上の段に座ると体感温度は80℃以上になる。熱い空気は上に昇るからだ。

オートロウリュの直後はさらに温度があがる。

サウナストーブに積んであるサウナ専用の石サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させることをロウリュというが、オートロウリュは、機械が自動的にロウリュを行う。無人でロウリュをしてくれるので人との接触に気を遣う今の時代には助かる仕組みだ。

満天の湯のオートロウリュは水をたっぷりとサウナストーンにかけてくれるので、蒸気の発生量が多い。ジュウーと耳心地の良い音とともに発生した蒸気は、上昇気流にのってタワーサウナの上段の壁にあたり跳ね返る。サウナ室全体の温度も上がるが、壁から跳ね返った熱い蒸気が背中にあたり、体が前後からサンドイッチされるように熱に包まれる。

不思議なことに、体の前面だけをあたためられるよりも背中をあたためられる方が安心する。受験勉強に疲れて眠りこけた夜にお母さんがそっとかけてくれた毛布とか、夜の公園で俺じゃダメか?と言われながらされるバックハグとか、さっきのベイビーたちが眠っているうたた寝湯とか。

いつまでもうたた寝湯のゆりかごから出てこない理由が分かったような気がした。

スーパー銭湯で宿場町の雰囲気を満喫する

満天の湯は横浜市の保土ヶ谷にある。保土ヶ谷は江戸時代に東海道五十三次の宿場町として栄えた。

その名残をちいさな町のスーパー銭湯が引き継いでいる。満天の湯は徹底的に宿場町の雰囲気にこだわったスーパー銭湯だ。

宿場町の雰囲気を引き継いだ内装

エントランスには火消しの手桶や米俵といった当時の生活を思い起こさせる小道具が置かれている。うなぎ屋の暖簾を横目に木造の太鼓橋を渡って入店する趣向が楽しい。

店内では、古い薬箪や薬研*の近くで満天の湯の名物 薬湯の漢方を煮出している。ハイビスカスティーのように透き通った赤色の薬湯エキスが目を楽しませてくれる。

*薬研…薬材などをすりつぶして粉末にする伝統的な器具

薬湯エキスを抽出中

満天の湯の良さはアミューズメント性だけではない。スタッフのホスピタリティがすばらしく心地よい。横文字ひと言で済ませてしまうのは惜しいほど、画一的なマニュアル対応ではない真のおもてなしの心を感じられる。このアットホーム感を味わうためだけでも訪れる価値があるスーパー銭湯だ。

すれ違うたびに優しい声で「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」と声をかけてくれたあたたかさは、サウナに行って3日経った今もからだに残っている。

特にひとり暮らしで、他人とのコミュニケーションが極端に減っているような人は、満天の湯に入店するだけで寂しさがやわららぐのでおすすめだ。

サウナとは関係のない相鉄線のはなし

余談ではあるけれど、今回満天の湯に行くにあたって久しぶりに相鉄線に乗った。

シルバーにブルーのラインがはいった昔の相鉄線の車体をイメージしていたら、大人っぽい濃紺にイメージチェンジをしていた。

2017年に創立100周年を迎えたのを機にデザインブランドアッププロジェクトを行ない車体をはじめ駅や案内板のフォントに至るまで変えたそうだ。

2019年には新しい車体がグッドデザイン賞を受賞している。

YOKOHAMA NAVYBLUEが光る

わたしが心躍らせた車体の濃紺はYOKOHAMA NAVYBLUEというオリジナルカラーで、実際の車体に何度も試し塗りをして完成させた気合いの入れようだ。鉄道好きのサウナーは満天の湯に行く際に電車も楽しみにしておいてほしい。

駅名のパネルは、車体と同じくネイビーを基調にしており、昔ながらの相鉄線のロゴと同じオレンジ色のラインが差し色としてパネルの下部に引かれている。

その昔、DCブランド全盛期にファッションブランドSUPER LOVERSで相鉄線の駅名パネルと同じ配色のジャージを買ったことがある。ネイビーにオレンジ色の三本ラインが入ったジャージ素材のジャケットだった。

これが不思議とどんなボトムスにも合うので年中着ていた。デニムにもジャージ。短パンにもジャージ。フリフリのスカートにもジャージ。

ある日、友人にこのジャージがどんな洋服にも合わせやすいのですばらしいと熱弁したら「いや、合ってないから」と意外な返事がかえってきた。その日の格好にもよく合っていたので、いまだに納得がいっていない。

とにかく、ネイビーにオレンジ色のラインは鉄板のデザインなのだ。

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この記事を書いた人

サウナ短歌の第一人者。サウナスパ・プロフェッショナル。公衆浴場コラムニスト。お問い合わせはインスタ・TwitterのDM、またはHPの問い合わせフォームからお願いします。

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