【サウナ短歌】空気ポンプとしてのサウナ

 サウナには中毒性がある。サウナに入ると体の疲れが癒され、精神的なバランスも取れる。仕事で疲れ切っていた心身がウソみたいにととのって、サウナってなんて素晴らしいんだろうと思う。サウナに入った日の夜はぐっすりとよく眠れるので、次の日の朝の目覚めも爽快だ。そうして、スッキリとした顔で意気揚々と会社に出かける。仕事の意欲がわき、今日の会議がうまくいきそうな予感に胸を踊らせながら自席に着く。
 残念ながら、サウナの効果が続くのはここまでだ。席に着くやいなや、上司に呼び出される。ありえない量の資料の準備を頼まれる。聞けば締め切りは今日中だという。残業が確定した。美味しいランチを食べて元気を出そうと、少し離れたビストロに行くと本日のランチは早々に売り切れていた。今から他の店を探しているとお昼時間が終わってしまう。コンビニで買ったサンドイッチを自席で食べることになった。午後の会議は資料の大事なページがごっそり抜けていて怒られた。昨日サウナ後に自宅で準備しようと思っていたのに、サウナが気持ち良すぎてすっかり忘れてしまっていた。夜になり、同僚が次々と帰宅していく。夜10時。オフィスの明かりはほとんど消えてしまった。自販機で缶コーヒーを買って席に戻ると、自分の席があるエリアにだけ明かりがついている。机の上に散らばった資料が煌々と照らされている。泣きたい。サウナに行けば元気になるのに、サウナに行けないから今日の俺はダメだ。
 サウナに行けないからダメ(元気が出ない、調子がすぐれない)という言葉をたまに耳にする。そんな時、恋愛が下手だった頃に彼から言われた言葉を思い出す。
「俺がいないとダメっていうのは、健全じゃないよ」
 あの人は大人だったな、と思う。

よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

サウナ短歌の第一人者。サウナスパ・プロフェッショナル。公衆浴場コラムニスト。お問い合わせはインスタ・TwitterのDM、またはHPの問い合わせフォームからお願いします。

目次
閉じる