【旅エッセイ】香港 〜吊るされたお肉とわたしのお肉

※この記事は2017年8月の旅行を振り返っています。

香港の露天では精肉がむきだして吊るして売られている。
ウラジオストクの市場では港町ということもあって生の魚が青空市場で山積みになって売られていた。生魚の露天は生臭さが気になってゆっくり見ることもできないけれど、生肉の方は思ったよりも匂いが気にならない。

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ところで、香港の人はこんなに大きな肉のかたまりをどうやって調理するんだろう?露天のおじさんに言えば好みの大きさにカットしてくれるんだろうか?
普段、小さなブロックか薄切りにカットした2〜3人前用のパッケージ販売に慣れている日本の感覚のままに香港の露天を見ていると想像もつかないようなことばかりだ。

ツアーガイドのトニーさんが言うには、香港の人はあまり家庭で料理を作らないらしい。日本人のお母さんはタイヘンだね、と言って笑っていた。
たしかに日本の家庭料理はかなり凝っていると思う。ドイツにホームステイしていた時にも、家庭料理ってこんなに簡単なものでいいんだ…とあまりの手抜き(?)加減に驚いた。日本人の感覚からすると栄養バランスも悪い気がしたけど、ドイツ人の子どもだって香港人の子どもだって特に問題なくすくすくと育っている。

気になるついでに言うと、なんで中華圏の人は英語名を持っているんだろう?トニーさんは絶対本名ではないはずなのだ。なのにまるで本名かのように堂々とトニーですと名乗る。これはやってみると分かるのだけど、なかなか難しい。本名ではない名前をなのると、どこか慣れない感じが出てしまって名前と態度がちぐはぐになってしまう。トニーさんには、その違和感がない。

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さて、そんなトニーさんの元から離れて自由時間に市場にやってきたわたしたちは精肉の露天に圧倒されていた。

まず、気温30℃の炎天下の中にクーラーボックスにも入れずにお肉をむき出して売っていることに驚くし、白いタンクトップのおじさんが汗をふり乱しながら店先でナタみたいな包丁で豚をぶった切っているのにも驚く。
タンクトップを着ていればまだマシで、店主が上半身はだかのパターンもある。
衛生管理は大丈夫なのだろうか?
食べてもいないのに胃腸がキュルキュルいっている気がして思わずお腹をさすった。

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60〜70cmほどの大きなかたまりにぶつ切りされた豚肉を、かぎ針状のステンレスの金具に引っ掛けて店頭に吊す。
じっと見ているとどのかたまりが元々はどのあたりにあった肉なのかわかるような気がする。目を細めて生前の姿を思い描いてみた。

すると、生きていた頃のことを思い出したとたんに生肉の赤さが気になり始めた。そして急に、わたしは今「肉」を見ているんだ。という気持ちになった。

「肉」。わたしのからだに付いているものとほとんど同じだ。皮があって脂肪があって血管や筋があって、肉がある。その「肉」が目の前で内部をむき出しにして吊るされているんだ。

可哀想とか残酷とか言う気は全くない。たとえ看板に描かれている子豚ちゃんがかわいくても…いや、この子豚ちゃんはちょっと反則だけど…それでもわたしは大好きなお肉をこれからも食べる。そこに抵抗はない。

だけど、わたしはわたしのやわらかいお腹をさすりながら不思議な気持ちになっていた。