【旅エッセイ】屋久島|カップラーメンリベンジ

友人Fとわたしの屋久島旅行は、コロナでキャンセルになってしまったニュージーランド旅行の代わりだった。

2020年の4月。わたし達はニュージーランドにいるはずだった。

マウントクックでトレッキングをしてフッカー氷河湖の湖畔でカップラーメンを食べる予定だった。もちろんシーフードヌードルだ。屋内で食べるのはベーシックなカップヌードルが間違いないけれど、なぜか屋外ではシーフードヌードルが一番におどり出る。

2020年年明けのわたし達は、カップラーメンは検疫に引っかからないかとか現地でどうやってお湯を調達しようかとかラーメン周りのことに頭を悩ませていた。

当時のわたし達に「ねぇ、4月どころか1年経っても海外旅行には行けないよ」と耳打ちをしたらどんな顔をするだろう。
結局わたし達は3月の終わり頃に旅行をキャンセルした。

それから半年以上たった2020年11月。
屋久島の森にカップラーメンを食べに行くことになった。

トムヤムクン味をチョイスするときもある

旅行の前日、わたしは割り箸をどうやって手に入れようか知恵を絞っていた。
カップラーメンを買うついでにレジでもらおうと考えていたのにすっかり忘れてしまった。1回きりのランチのためにわざわざ100膳入りの割り箸を買おうとは思わないし、かといってバラ売りの割り箸なんて売っていない。一膳だけの割り箸って結構需要があると思うんだけど……。

 

旅行の当日。朝4時に起きて空港バスに乗り込み、うつらうつらしながら割り箸のことを考えていた。まだ手元に割り箸はない。
明日のお昼にカップラーメンを食べるまでに割り箸を手に入れられそうな場所はどこだろうか。

お昼ごはんを食べる予定の屋久島の食堂の情景を想像してみた。テーブルの上には引き出し式の割り箸入れが置いてあるだろう。食事が運ばれてきたらそこから二膳取り出す。はたから見たらさも一膳に見えるように二本をぴったりと重ね合わせて取り出し、一膳はお盆の上に、もう一膳はひざの上に置いたカバンの中へ。

空港バスが首都高に入りグンッとスピードをあげた。カーテンごしに差し込む朝日がまぶしい。

割り箸どろぼうとしてこの先ずっと良心にさいなまれて生きていくのは辛いだろう。正直に食堂で割り箸を一膳くださいと言おう。そう決心すると安心して眠りに落ちた。

羽田空港で友人Fと落ち合い、このあとの重大な計画を話すと「予備持ってきたからあげる」と言われた。

予備。それはわたしの旅行辞典には載っていない言葉だ。Fはすごい。

 

※このエッセイは2020年11月の旅行を回想して書いています。

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この記事を書いた人

サウナ短歌の第一人者。サウナスパ・プロフェッショナル。公衆浴場コラムニスト。お問い合わせはインスタ・TwitterのDM、またはHPの問い合わせフォームからお願いします。

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