【旅エッセイ】冬のウラジオストク 〜灰色の街

※この記事は2018年12月の旅行を振り返っています。

ロシアの黒板五郎さんと、和やかな押し問答をした後、わたし達は、バーニャと呼ばれるロシア式サウナのリビングでゴロゴロしていた。

サウナでリビング?と、ちょっと不思議に思うかもしれない。
ロシアのサウナはロッジを一棟貸し切るスタイルになっていて、小屋の中にリビングとサウナがあるのだ。

マイナス10℃の気温でカチコチになっていた身体は、サウナでぐにゃぐにゃに溶かされて、わたし達は夏休みの子どもみたいに、スマホを片手にリビングの思い思いの場所で転がっていた。

もう、このままタクシーが来なくて、ここに泊まったっていいなぁ。

と思っていたら、15分ほどでタクシーが来た。

五郎さんに促されて、隣のバーニャに来ていた韓国人の若いカップルと同じタクシーに乗せられて、ウラジオストク駅に向かった。

韓国人の女の子はロシア語がペラペラだった。

わたし達に向かって英語で「ウラジオストク駅でいい?」と行き先を確かめてから、タクシーの運転手に向かってロシア語で話しかけた。

ウラジオストクは、韓国人の観光客が多い。
しかも20代くらいの若い観光客が結構いる。
これは、韓国人がビザなしで観光できるおかげかもしれない。

ただ、ロシア語を話している韓国人もちらほら見かけたので、ウラジオストク大学に留学している人も多いのかもしれない。

そういえば、以前、英語留学で有名なインドネシアのセブに行った時も、韓国人の留学生をたくさん見かけた。

韓国の若い人は、本当に勉強熱心だと思う。

さて、タクシーに乗れたし、ロシア語と英語を話せる人が同乗しているし、もう大丈夫だなと思った。
その途端、サウナ後の心地よい疲労感が襲って来て、ウトウトと眠り始めた。

目を覚ますと、まだウラジオストク駅には着いていなかった。
雪のせいで渋滞にハマっていたのだ。

しかも、ほんの少し居眠りをしていた程度だと思い込んでいたのだが、実際には大いびきをかいて眠りこけていたらしい。

若くもなく、ロシア語も話せず、英語もカタコトな上に、他人と同乗している狭いタクシーの車内で大いびきをかいてしまうとは、どういうことなのか。

と、反省すればまだいいのだが、こういうときのわたしは何故か神経が図太い。

普段は気にしすぎるほど、多くのことに思い悩むのにだ。
わたしの思考回路は一体どうなっているのか、自分でも不思議に思う。

友人にいびきをかいていたことを指摘されたわたしは、
「あぁ、そう」と言って、窓の外を見た。

もう、雪は止んでいたが、相変わらずタクシーは動かない。

このあとは、マリインスキー劇場でオペラを観る予定になっていた。
劇場までは、ウラジオストク駅の近くのバス停からバスに乗って行く予定をしていたので、このままタクシーが動くのを待っていると開演に間に合わないかもしれない。

韓国人のカップルに声をかけて、おおよその乗車賃を渡し、タクシーを降りた。

雪が積もったウラジオストクは、美しい灰色をしていた。


もしこれが、まぶしい程の白銀の世界だったら、わたしはここまでウラジオストクのことを好きではなかったと思う。

根暗な自分を、そのまま街に溶かし込んでくれるような、薄暗いウラジオストクが好きだ。

そんなことを考えながら、雪を踏みしめ、駅まで歩いた。