サウナ短歌
窓ガラス壊してまわったことがないオイラもずぶ濡れで立つシェリー
15の夜、わたしは盗んだバイクで走り出すことができなかった。
校舎の窓ガラスを割って回ることもできなかった。
わたしの思春期の密やかな反抗は、体温計を指でこすって学校をズル休みすることと、深夜にこっそりキッチンに忍びこんで親父のビールを盗み飲みすることだけだった。
武道館いっぱいに集まった若者の魂を1ミリも震わせない、セコイ青春だ。
そんなわたしに尾崎豊が降臨した。
神楽坂のソロサウナtuneで。
完全個室サウナ
ソロサウナtuneは、2020年11月にオープンしたばかりのおひとり様に特化したサウナだ。(一部、同性同士のグループ利用も可)
狭くて暑い空間にはだかでぎゅう詰めになるというサウナの固定観念を180度くつがえした。
ダークグレーを基調にしたシンプルでラグジュアリーな空間をひとり占めできる。
サウナ室であぐらをかいても、向かい側から秘部をのぞき見される心配がない。
寝っ転がったっていい。咳やくしゃみをしても「こいつ、コロナじゃないか?」なんて訝しげな視線を浴びることもない。完全個室の中では自由だ。
仰向けになって足を高く上げると、サウナ室の上にたまった温かい蒸気が足先までまんべんなく包みこむ。
手先も温めるために腕を上にあげると丸焼きにされる運命の豚のようになったが、おひとり様サウナでは何の不都合もない。
豚だったら何だって言うんだ。おひとり様サウナ最高!
尾崎豊が降臨する水シャワー
ソロサウナtuneの唯一の残念なポイントは、水風呂がないことだ。
水シャワーは水風呂の代わりにはなれない。tuneに行くまではそう思っていた。
それはとんでもない誤解だった。
水シャワーを浴びたわたしに尾崎豊が降臨したのだ。
頭の上から冷たい水が降ってくるのは怖い。こちらは素っ裸で防御力0なのだ。
衝撃を最低限に抑えるように慎重にシャワーの蛇口をひねると、天井から最初のひと雨が ぽつん と落ちた。
「雲行きが怪しいな……」
雲行き?
セルフロウリュをしたたっぷりの湿度で蒸し上げられたせいか、頭上に固定されている大きなシャワーヘッドが雨雲のように見えてきた。
ぽつん ぽつん ぽつ ぽつ
雨粒の間隔が徐々に短くなり、あっという間に途切れることのない雨が頭上に降り注ぐ。
天を仰ぐと、今や激しさを増した豪雨が顔面を強く打ちつけた。
シェリー…!
なぜか叫んでいた。
いつになれば 俺は這い上がれるだろう シェリー…!
空は一向に晴れる気配がない。
このままでいいのか?
十数年経った今もセコイ青春を繰り返すのか?
大人という名の理不尽な雨に屈して濡れた地面に額をこすりつけたままでいいのか?
心に灯った尾崎の火がわたしを奮い立たせる。
ざぁざぁと降り続く雨が歌声をかき消してゆくが、ずぶ濡れになるのも構わずがなり声をあげた。
シェリー…!!!