【旅エッセイ】香港 ~海外旅行はごり押しするぐらいがちょうどいい

※この記事は2017年8月の旅行を振り返っています。

人生で数回目の北京ダックを香港で食べた。
鹿鳴春というお店で、安くていい北京ダックを食べられることで有名らしい。
北京ダックというと皮だけをうすくそいで食べるものだと思っていたけど、鹿鳴春の北京ダックは身を厚めにそいであるので食べ応えがあった。
身はほどよくジューシーで、薄い春餅(チュンピン)も粉の旨みがあっておいしい。春餅にお肉をのせて味噌ダレのようなものとネギをのせてくるっと包む。ぱくつくと春餅の粉が口の先からパフっと飛び出した。

これは、確かにおいしい。
この鹿鳴春で北京ダックにありつけたのは多少ごり押しした結果だった。本当ならわたしはこの席でビールを片手に北京ダックを食べていないはずだったのだ。

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ネットで鹿鳴春の評判を見つけたわたしは、日本から予約の電話をかけた。
英語で予約がしたいと告げると、電話の向こうの店員さんが大声で誰かを呼んでいる。
ハローと、代わりの店員さんが電話口にでた。英語ができる店員さんを呼んでいたのだ。

○月×日の△時から予約をお願いしますと言うと、一言「フル!」と返ってきた。
じゃあ×時は?と言うと「フル!」。えー、じゃぁいつが空いているんですか?と聞くとその日はぜーんぶ「フル」らしい。

ちょっと困った。
この香港旅行では全日ガイド添乗の刊行ツアーが組まれている。自由時間が限られているので、この日が「フル」となると日程の調整がむずかしい。
他の店に行くか、北京ダック食べるのをあきらめようか…と思ったが、ここまで「フル」のお店の北京ダックとはどれほどおいしいのだろうと考えると意地でも行きたくなってきた。これはもう鹿鳴春に行かないと香港に行く意味がないのではないか?
そこでなんとか違う日の遅めの時間に予約を取り付けた。

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予約の当日。
日中にあちこち歩き回って観光をしたのでかなりお腹が空いていた。予約の時間までは1時間以上あいだが空いていたけど、早めにお店に向かうことにした。
電話口の店員さんによると早めの時間は全部「フル」ということだったが、ダメ元だ。

お店の入り口で「予約してますー。」とだけ告げた。
何時からとか、予約の名前とか、そういった細かいことは何も言わなかった。ほんのちょっとわざとだ。何かうまいこといって早くおいしいご飯が食べられないかな…と少しの望みをかけていた。

すると店長のような一番パリッとした店員さんが、時間も名前も確認せずに席へ案内してくれた。
こうしてわたしたちはうまいことおいしい北京ダックにありつけたのだ。

お店にはいってから30分程経ってわたしたちが北京ダックをビールで流し込んでいる時に、隣のテーブルに新しいお客さんがやってきた。
彼らはわたしたちのテーブルを指差して「北京ダックをお願いします。」と言ったが、店員から返って来たのは「ソールドアウト」の一言だった。
彼らとわたしたちのテーブルのあいだに冷たい空気が流れた。

彼らは仕方なくしばらく他のメニューを眺めていたが、二言三言話し合うと店を出て行った。

店長のような店員は、その後ろ姿を見送ってからわたしたちの方に向き直りウインクをした。喜びたいけど喜んではいけないような微妙な気持ちで「はは。。」と会釈を返した。