【旅エッセイ】信州しなの町 〜そろそろ帰ろうかメェ〜

※この記事は2019年9月の旅行を振り返っています。

神社仏閣や観光名所にはあまり詳しくない。
年配者はそういうものに詳しいなと、ずっと思ってきた。わたしも年を重ねれば自然と詳しくなるものだと思っていた。大河ドラマも見るようになるんだと思っていた。
40年ちかく生きてみたけど今のところ詳しくなりそうな気配はない。大河ドラマも見ない。

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長野駅の近くのお店で友人がレンタカーの手続きをしている間、わたしはなんとなしに店内に置いてある薄い観光パンフレットをパラパラとめくっていた。
杉林の中に真っ直ぐな砂利道が長く伸びている写真に目が留まった。まるでモーゼの十戒のように杉並木が砂利道をさかいにしてぱっかり割れている。

こんなところを歩いたら気持ち良いんだろうな。どこだか知らないけれど、こんなに素敵な場所があるなんて長野に来てよかったと思った。
わたしはヒドい花粉症だけど、この季節(9月)なら杉の木も癒しになる。

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そこは戸隠神社という場所だった。
杉並木は随神門から奥社へと続く道にあり、約500メートルにわたって200本以上の杉の木が生えているそうだ。

気持ちよく杉並木を歩いていく。せっかくだから神社にお参りをしようと、奥社を目指すことにした。
杉並木を抜けると思いの外急な階段道となった。完全に整備された階段というよりは、よく整備された登山道という感じだ。両手をいっぱい振って歩けた広々とした杉並木とは違って、徐々に階段道の人口密度が高まっていく。
気がつくと奥社へ続く行列に並んでいた。そしてとうとう先がつかえて一歩も進めなくなってしまった。

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まるい旅行会社のワッペンシールを胸につけた団体が見えた。同じように行列に並びながら腕時計をチラチラと気にしている。

ツアーガイドと思わしき健脚の女性が階段を登ったり下りたりしながら同じワッペンシールの観光客に声をかけて回っていた。

「この辺の人は、もう奥社へのお参りは間に合いません!」

ツアーのスケジュールを厳守するのは本当に大変そうだ。わたしは旅が好きだけど、ツアーガイドには到底なれないと思う。この急な階段を登り降りする体力、てんでバラバラに行動するツアー客をまとめる気力。このパワーには頭が下がる。

ちりぢりになったツアー客を、戸隠神社中を駆け回りながら大声を張り上げてバスが停車するふもとへと誘導する。まるで牧羊犬のようだなと思った。
ツアー客は差し当たり牧場の羊だ。仲間同士でなにごとかを呟きながら、ゆっくりと行列から離れてふもとへと降りていく。山の中に「メェ〜」という声がこだました気がした。