銭湯と言えば何を思い出しますか。黄色いケロリン桶?風呂あがりのビン牛乳?いやいや、なんといっても富士山のペンキ絵でしょう。銭湯絵、とも言います。
銭湯絵にはお決まりの3点セットがあって、一つは富士山。そして、海と松の木。この3つと相場が決まっている。最近はオシャレな銭湯絵が増えてきたけれど、浴室に入って「デデーン」と富士山がそびえたっていると、これだよ!と思う。日本人は富士山が好きだ。
能登半島の海沿いに立つサウナでは、ガラス窓のむこうに、ザ・銭湯絵の景色が広がっていた。日本海なので富士山はないが、さざなみを立てる海が目の前に広がり、海岸ぞいには松の木が並ぶ。まさにそれっぽい。リアル銭湯絵だ。
海に浮かぶ小島が、またいい味を出している。頭の上に松の林をこんもりとのせて、日本海の沖にぽつんと浮かんでいた。
ところが、はっとした。海は、朝も昼も夜もどんよりとした色をたたえている。まるでコンクリートを極限までうすめたような色だ。夏真っ盛りだとしても、入るのがためらわれる海だった。
サウナに入りながら思った。あぁ、銭湯絵の青は、やさしさの青なのだ、と。リアルであれば良いというものではない。見る人のこころに沁み入る絵であるように、絵師はあの鮮やかな青を銭湯の壁に塗りこめたのだ。