その貸切サウナは、竹垣にかこまれたプライベートなテラスがあった。
と言っても、標準的なファミリータイプマンションのベランダくらいの、こじんまりした場所ではあるけれども、鎌倉駅から徒歩1分という立地を考えると十分な広さだ。
裸にバスタオルを巻いてテラスに出ると、サウナ後の身体に風が心地良い。3月上旬にしては暖かい日だった。
貸切サウナ付きのホテルに一泊する、ぜいたくな近場旅だ。
サウナの前に訪れた鎌倉の寺院では、梅の花が一足早い春を告げるように満開だった。桜のつぼみも、まるで臨月を迎えた妊婦のように、春の訪れを待ちわびてぱんぱんに膨らんでいた。もうすぐ春がくる。うれしさよりも、焦りが上回って、鼓動が早くなった。新年を迎えてから、まだ何も成していないのに、もう春がくるなんて。
でも、こうしてテラスで外気浴をしていると、不思議と焦りは消えていく。
木製のベンチに横になって、じっと目をつむってみる。テラスのすぐ横にあるJRのホームからアナウンスが流れてきた。
♪〜 2番線、ホームに列車がまいります——。
明日は電車に乗ってどこに行こう。サウナ、水風呂、外気浴、そして列車の音。私はすっかり元気を取り戻していた。
もう春がくるではない。まだ春はこれからなんだ。