※この記事は2017年8月の旅行を振り返っています。
この写真を見てピンとくる人はたぶん同じ青春を送ってきた人だと思う。1990年代後半にヒットした香港映画「恋する惑星」で登場人物の1人が住んでいるアパートが、このヒルサイド・エスカレーターの脇にあるという設定だった。
アパートの住人に恋をするフェイ・ウォン扮するフェイが、エスカレーターにもたれて部屋をのぞく姿が印象的だった。
映画を知らなくても、ヒルサイド・エスカレーターは世界一長いエスカレーターとして有名なので香港の観光スポットのひとつになっている。
ガイドのトニーさんが率いる我々香港ツアー御一行様ももれなくヒルサイド・エスカレーターのふもとに連れてこられた。
エスカレーターは一方通行なので、時間によって上り運行のときと下り運行のときがある。上り運行のときにこの坂道を下りたかったら、となりにある階段を下るしかない。
世界一長いエスカレーターを作っておきながら、なぜ上り下りの2車線にしなかったのか不思議だ。
時刻は午前9時50分。10時になったらエスカレーターが上り運行に切り替わるというので、我々一行はふもとで待機することになった。
ところが、10時を過ぎてもエスカレーターは切り替わらない。香港時間というものだろうか。海外旅行のよくあるやつだと思っていたが、10分ほど経ったあたりから現地人のトニーさんも首をかしげはじめた。
あたりはいつの間にか、同じように10時の上り運行に合わせて集まった観光客でごった返している。
待ち始めて最初のほうはエスカレーター通りの脇に並ぶお店の看板をながめていた。レストランの看板に描かれたおすすめのメニューをひとつひとつ丹念にながめたりしていたけど、もう今となっては何度同じメニューを読み込んだことだろう。
看板に飽きると、今度はハトを見つめながら待っていた。この場所はハトがやたら多い。ハトのふんも多い。その代わりに日本の飲食店街にいるはずのカラスを全く見かけない。
ハトとハトのふんをこんなに観察したことがあっただろうか。
10時20分頃になって、上の方に様子を見に行っていたトニーさんが階段を駆け下りて戻ってきた。
「みなさん!もうすぐエスカレーターが動きますから!」
警備員が下りエスカレーターの入り口に立って乗客の乗り入れをふさいだ。
最後の乗客がふもとに下りてエスカレーターの中に乗客がいなくなったのを確認すると、エスカレーターは上り運行に切り替わった。
わたしは今も、ヒルサイド・エスカレーターを思い出すと、ふもとの踊り場にびっしりこびりついたハトのふんと、それを遠巻きに眺めるハトを思い出す。見なくていいものを見つめすぎてしまった。
旅エッセイ香港編はこれにて終わりです。
明日からはまた違う土地へと旅立ちます。お楽しみに!