【サウナ】厚木 湯乃泉 東名厚木健康センター|忘れてしまった河川のブラボー

サウナ短歌
96 14 36度へて原始スープの水素になる

96 14 36。暗号のような数字の羅列を見て一瞬でピン!と来たら、あなたは立派なサウナーだ。96 14は言わずもがなだろう。

何のことだかさっぱり分からない非サウナーのあなたは、身近なサウナーに聞いてみてほしい。答えを教えてもらう代わりにサウナ沼に引きずり込まれることになるが、代わりに健康とこころの安穏が得られるのだから損することは何もない。

迷うのは最後の36だ。人間の体温と同じなので外気浴中の体感温度とも取れるし、不感湯の水温の可能性もある。湯乃泉 東名厚木健康センター(以下、ラッコちゃん)には外気浴スペースも不感湯もあるので判断しづらいところだ。

正解は、ラッコちゃんに行って確かめてみてほしい。

外気浴をへてあなたが原始スープの水素になるような感覚を得たなら外気浴が正解だし、不感湯をへて原始スープの水素になったのならそれが正解だ。想像しただけでは正解は分からない。どうすれば己(おのれ)が原始スープの水素になるのか実際に体感してほしい。

なお、原始スープとは、水、メタン、アンモニア、水素を混ぜてたもので生命のスープとも呼ばれる。生命が誕生する前に存在したと考えられている気体を混ぜて当時の海を再現した物だ。

1950年代にスタンリー・ミラーという大学院生が、この原始スープに雷に見立てた電流を流して生命の起源を解き明かそうとした挑戦的な実験だ。

地元民の憩いの場 湯乃泉 東名厚木健康センター

午前11時10分本厚木駅発の送迎バスにゆられてラッコちゃんへ向かった。

送迎バスはこの標識のあたりに停まる

受付で熱を測って入館すると、間違って老人ホームへ来たのかと錯覚するほどの高齢者 高齢者 高齢者だ。

館内着にマスク姿でぞろぞろと食堂へ向かう高齢者たちの顔には感染リスクの「か」の字もない。ラッコちゃんの名物、8つの漢方を配合した薬湯のおかげか肌つやが良くみんな元気だ。

食堂はほぼ満席だった。空いている席に近づくと淡い花模様のハンカチーフがふんわりとテーブルの上に置かれていたり手編み風の手さげが椅子に置かれていたりするので、いくつかのテーブルを回ってようやく空席を見つけて席についた。

無音で流れる王様のブランチを観ながら、小豆島のこだわり醤油を使用した百年醤油特製ラーメンをすすっているといきなり肩をたたかれた。

「席、とってたんだけど」

顔をあげるとマダム3人集がわたしを見下ろしていた。

「もしかして…コレですか?」

わたしは湯呑みの下に敷かれたティッシュを指さした。てっきり、湯呑みにウィルスが付着しないように感染症対策をしているのかと勘違いをしていた。

席を譲りたくても、見渡す限りの超満員だ。キョロキョロしていると、後ろの席のおじいさんが「ココ使いな」と声をかけてくれた。

相席をさせてもらってラーメンの続きを食べながら上目づかいにチラリと見ると、白髪を後頭部の高い位置で一本に束ねたサムライスタイルのおじいさんだった。冷やしトマトをアテにしてキープボトルの焼酎をすすっていた。昔も今もサムライに悪い人なし。

ラーメンを食べ終わって席を立ったときに「また戻ってきたら、この席使っていいから」と声をかけてくれた。どうやら、この食堂は常連がテーブルキープをしているようだ。

各地のサウナを転々と浮気してまわっているわたしには彼らがまぶしく見えた。何十年通えばテーブルキープできるのだろうか。

わたしの頭の中で、黒髪のサムライ青年が初めてラッコちゃんを訪れた日から初めてボトルキープをした日、次第におでこが後退し、白髪が目立ちはじめ、酒のつまみがフライドポテトから冷やしトマトになっていった日々が走馬灯のように駆けめぐった。そして会釈をしてサムライ紳士と別れた。

地元民にもサウナーにも愛されている

ラッコちゃんの塩サウナ

ラッコちゃんのサウナは熱い。女性用のサウナでも90度を超える。お尻がヤケドしそうなほど熱くて座席に座れない。サウナマットを四つ折りにして座っても熱いのでお尻の下に手を敷いて座ったほどだ。

短時間でカッと身体をあたためてキンキンに冷えた水風呂に飛び込む。すぐに手足の先が痺れるように冷えてくるのでこちらも短時間で引き上げるのが良い。サッと湯がいて一気に氷水でしめる。そうめんスタイルのサウナだ。

そして露天コーナーにある外気浴チェアに腰をかけて心地よい風に吹かれる。地元の高齢者がラッコちゃんに集まる理由がわかった。

サウナだけではない。黄土色の薬湯にジェットバス、炭酸泉の不感湯、草津の湯。そして気の合う仲間と飲むボトル焼酎。なんて素敵な憩いの場なのだろう。

浴室でしばし休憩しながら裸のマダムたちが目の前でいったりきたりする様子を眺めていると、やけにヌメっとしたつや肌のマダムが塩サウナから出てきた。これからぬるぬる相撲でもやるのかというほどヌメっとしている。

わたしは塩サウナが得意ではない。ぬるいのだ。ちまたの塩サウナは50度前後しかないので長時間いると身体が冷えてくる。塩が効いているのかどうかも良く分からない。

ところが、ラッコちゃんの塩サウナはあたたかかった。室温計は62度を指していた。タイル貼りの床も椅子も韓国の床暖房 オンドルのように心地良い。みかん、米ぬか、茶の実をブレンドした塩を身体に塗ってじっとしていると身体があたたまったおかげか、塩のデトックス効果か、いつの間にかバリバリだった肩こりが気にならなくなっていた。

塩サウナから出るときには、わたしの肌もヌメっとしたつや肌になっていた。1日経ってもしっとりすべすべしている。この塩サウナは男性浴場にはない。男性にもこのヌメつや肌を味わってほしい!そして、全国の塩サウナの標準温度を62度にしてほしい!

ラッコちゃんの玄関に出ると、朝からぐずついてた空は今もなおぐずついて小雨が降ったり止んだりを繰り返していた。

ところが、サウナのあとに見上げる空は曇天だろうが晴天だろうが何も変わらず一様に美しい。雨の滴をたたえたツツジの花にも美しさを感じてスマホのシャッターを切った。今見るとなにがそんなに良かったのかさっぱり分からない。

ツツジ

帰りは送迎バスに乗らずに相模川までさんぽをした。雨はとうとう止むことをやめてシトシトと降りつづけていたがむしろ気持ちが良い。いまだに浴室にいてシャワーを浴びているような気分だ。

20分以上歩いて相模大堰(おおぜき)に辿り着いた。堰(せき)とは、川の水流を制御するための建造物で、つい1年ほど前の2020年3月に自転車と歩行者用が渡れるようになった。

ここはラッコちゃん帰りの散歩コースに組み込んでほしいおすすめスポットだ。河原ではクローバーや百日草といった野草が目を癒してくれる。

建造物マニアにとってはガラス張りの管理棟を眺めながら橋を渡るのもおもしろいだろう。なんでなくてもサウナ後の視界はバキバキに冴えている。

橋の真ん中でブラボー!と叫ぶ代わりにシャッターを切った。どんよりとした河川が写っている。何がブラボーだったのか、サウナから一晩経った今となっては思い出せない。

相模川